『夕凪』(その2)
「1日で10分前後の作品を撮影するには、何回までの場所移動が可能なのか?」
つまり、物語上いくつの場所を描くのか。これまた毎度悩むことである。場所移動をすると変化に富んだ画が撮れてよい。しかし、移動し続けて演出に時間が取れないようでは本末転倒。さて、どんな1日となるのだろうか。
撮影当日、始発電車で集まれる一番早い時間に集合し、いざ横浜へ!
マンションの撮影から開始する。家具が全くない、誰も住んでいないマンションが撮影現場となるのだが、美術:岩本浩典、安宅紀史が生活感あふれる部屋へと飾りかえていた。設定どおり、母親と父親による温かい家庭が感じられた。最終的に画には映らなかったが、ベランダには空っぽの、洒落た鳥かごが飾ってあり、にやりとさせられた。この部屋からひとつひとつ物が運び出されていく。生まれてからずっと使っていた家具がなくなっていく。
福田麻由子さんは、その複雑な心境を見事に表現していた。シーンごとに監督と話し合い、お芝居を決めていく。バリガーのブログその1で、「23歳のころ何をしていたか?」という疑問が書いてあるが、いやはや11歳のころこそ、何をしていたんだろうか? 福田さんと同年代のとき……。いかん、ジャージの袖で鼻を拭いて、その袖がてかてかになってたことぐらいしか思い出せない。家族との別れとか、哀しみなんぞ、理解できなかったはずだ。いや、私と比較しても何の意味もないことだ。だが、福田さんの現場でのお芝居への取り組み方は脱帽である。鈴木励和くんも、夜中までの撮影だったが、凛々しかった。撮影前に一度お会いした際は20時を過ぎており、「普段はこれくらいに寝るんですよー」と、とろんとした目をしていたが、撮影ではとてもがんばっていた。
で、戸田昌宏さん扮する父親と、森田亜紀さん扮する母親は、何故離婚したのだろうか? 二人とも優しくて、他人を思いやる気持ちがあるように見えたのだが……。離婚とは、外からだと原因がわからないものなのかもしれません。なんて考えながら現場を見ていた。
撮影は深夜に終了する。翌日から編集作業の開始である。