『宇宙のはじまりとおわり』(その1)
『宇宙のはじまりとおわり』
脚本:矢部浩也+及川章太郎 監督:矢部浩也
撮影日 2005/9/30
クランクイン 14:00@荒川河川敷
クランクアップ 翌3:00@荒川河川敷
映画界に「蓮實スクール」という一群があります。蓮實重彦が立教大や東京大で開講していた映画をめぐる授業に参加、映画人となった人々の総称。黒沢清、周防正之、中田秀夫、塩田明彦、青山真治、市山尚三ら、錚々たる監督やプロデューサーたちがいます。監督:矢部浩也もその一人でした。東大在学中に制作した8mm映画は斬新で、日活演出部入社後は助監督として数々の監督たちに師事。『ジョビジョバ・イン・トラッパー 黄金的六人』の原案で注目され、『ラブホテルの夜』は当時の日活若手監督のオムニバス作品として話題になりました。しかし、日活演出部は社内事情で解散…ネットの映画コラム『銀幕のいぶし銀』や雑誌『ユリイカ』での映画評で名前は見かけるものの、もう監督業からは足を洗ったものと思っていました。
ふとしたことで、会ってみると「ニューヨーク大学に留学したものの、映画は撮らず、帰国後は日活傍系の衛星放送局でディレクターみたいなプロデューサーみたいな曖昧な日々ですが、結婚して子供もできました。はい。おかげさまで。」 もう監督業には興味を失ったようです。<One Day Movie>の企画を相談してみても、さほど反応はありませんでした。
数日後、とある小説が送られてきました。中学生たちの「一晩」を描いた物語です。奇しくも、映画化が決まった話を聞いたばかりの小説でした。「原作ものは無理です」「いや、ストーリーではなくて、ネット配信なら、同時進行性みたいなものを追求してもいいかなぁと思って…」なるほど、矢部監督のやりたかったことは、閉じた映画よりも開いた実況映像だったのです。ネットの即時性を活かした1日のドキュメンタリー映像を配信するという壮大な企画でした。
(その2へ続く)